ろき通信 vol.74   札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.37

林 美奈子(はやし みなこ)の制作現場

 札幌の「ギャラリー犬養」では、よく不思議な偶然が起こります。友人の展示会に行ったとき、林さんが別の部屋で展示をしていたこともその一つ。ギャラリーは築100 年ほどの古民家を利用した雰囲気のあるスペースですが、林さんも独特の世界感を持っていました。

紙との出会いを大切に……

「ゆゆのつづき」2019

「ゆゆのつづき」2019

 林さんは、経年変化した古い紙などの素材を用いて、主にコラージュの手法で作品を制作しています。紙は友人などから自然と集まるそうで、縁の感じられる素材でもあります。

 東京で活動を始めた林さんの初めての展示は、友人に引き込まれた形でした。その後もあちこちから声が掛かって、展示の回数が増えていきます。

 2013年に札幌に移住したときは不安もありましたが、ふたを開けてみると心配は無用でした。先に札幌に移住していた友人から「おもしろいギャラリーがある」と紹介され、行ったその日に展示の予定を入れることになります。それが「ギャラリー犬養」でした。

 「人に恵まれている」と話す林さんは、それがすぐに納得できるほどエピソードが豊富で、笑ってしまいました。札幌は彼女にとって、東京や故郷の岐阜よりも肌に合った場所。移住したことで、作家活動も増えたように感じると、うれしそうに話してくれました。

林 美奈子(はやし みなこ)  ひとつ困ったことは、古い紙の素材です。自分のもとにめぐってくる紙との関係性を大切にしているため、ネットに頼って買ったりするのはどうかと考え、制作できなかった時期もありました。そもそも彼女が素材にこだわるのは、国文学科卒業であることや、古本屋やアンティークショップで働いていた経験からも想像がつきますが、作風自体は彼女の子供の頃の環境につながっているように思いました。

 幼い頃は、両親が共働きだったため、夜まで祖父母の家に預けられていたそうです。大工の祖父が作った家には、檜風呂や鯉の泳ぐ池もあったのだとか。半地下の納戸にはガラス瓶に入った保存食があり、その中にできた塩の結晶がとてもきれいで好きだったこと、兄弟と森へ冒険に行って木の実や化石を拾ったことなどが蘇ります。札幌に移り住んだ今でも、栃の実を拾ったり、自宅の庭にある藤のつるを干してペンにしたりと、すべてが“三つ子の魂百まで”を物語っているようです。

 今年はあえて個展のみの予定にしており、「自分らしくマイペースに制作していきます」と笑顔で語ってくれました。

林 美奈子(はやし みなこ)/美術家

Blog「紙と薄荷と古本と」
http://hayashiminako.blog33.fc2.com/

岐阜県出身。18歳で東京へ。2013年に札幌へ移住。日常と非日常の間に漂う粒々の採集と研究。古い紙と記憶のコラージュ。2008年イラストレーション「ザ・チョイス」入選(審査松浦弥太郎氏)、2009年イラストレーション「ザ・チョイス」年度賞優秀賞。 2008年初個展「植物園の午後」ギャラリーラ・ボヌル(東京)、2014年から毎年ギャラリー犬養(札幌)で個展開催。ほかグループ展多数。2019年装画「ゆゆのつづき」高楼方子(理論社)。

※「ろき通信」は小野寺燃料が情報誌で10年以上継続しているアートレポートです。
 北海道出身や札幌拠点で活動する現代アートの作家たちをご紹介しています。

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