小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.32
~ろき通信 vol.70~

林 由希菜 (はやしゆきな)の制作現場

「いつ、次の作品が見られるだろうか」と気になってしまう作家がいます。そのうちの一人が、林由希菜さん。彼女の作品には、深く静かな水中にいるようなシーンが多く描かれています。朝の連続テレビ小説のように、続いているような、またナレーションがあるわけでもないのに、作品に語りかけられているような感じがあるのです。

深く静かな水中から感じる絶妙なバランス

 水中がモチーフになっていることが、ずっと気になっていました。理由を聞いてみると、3歳から水泳を習っていた影響で、水中にいると落ち着くからかもしれないと話してくれました。今でもたまに気分転換にプールに行き、潜っているそうです。彼女の作品から荒々しさを感じたことがない理由も、ここにあるのだと思いました。

 学生のころ、家によりどころを見つけられない時期があり、現実逃避のように理想郷ばかり描いていたそうです。自然と大切なものになっていた〝制作〟に没頭する半面、ストレスがないと描けないようにもなってしまいます。そのため2、3年、描けなかった時期もありました。

 描けない自分が嫌でギャラリーにも行かないし、誰とも会いたくなくて、仕事と家を行き来するだけの日々もあったと聞き、作品の穏やかなイメージからは想像できず驚きました。

 今は気負わずにマイペースに描いているそう。それでも、「展示のたびに、これで最後かなと思っています」と彼女の口から聞いたときは、少しゾクッとしました。それは何とか避けていただきたいのが、筆者の本音です。

 今は自宅で制作していますが、以前は展示前に別の場所で制作することもありました。最近は友人に頼まれてウェディングボードを作っています。

 作品を制作するときのバランスについて聞いてみると、こんなたとえ話が返ってきました。「服を着ていて、それを何枚脱ぐのか。裸まではとはいかないけれど、葛藤があって、理性をどこまで保っているべきか」。このたとえ話を聞いて、近年のグループ展でも、この視点が大きく関係しているように思えました。

  というのも、見る側にどう映るかを意識しているように見えるからです。とても当たり前なことかもしれませんが、展示スペースで、自分の作品がどう目に映るかまで考える作家ばかりいるわけではありません。服のたとえのように、どこまで自分をさらけ出すか、バランスを取るのは難しいことです。

 彼女はコンスタントに制作するタイプではないので、その分次回作への期待が高まります。次は、どんな作品を見せてくれるのか。少しだけ、先のことを聞かせてもらえましたが、秘密にしようと思います。大きな作品が見られる日を心待ちにしています。

「ねむる」(2018年)
※「ろき通信」は小野寺燃料が情報誌で10年以上継続しているアートレポートです。
北海道出身や札幌拠点で活動する現代アートの作家たちをご紹介しています。

林 由希菜/画家

1986年札幌市出身。
2009年札幌大谷大学短期大学部 専攻科美術修了。大学では版画を専攻、近年では主にオイルパステルで制作。
(個展)2010年「みずたまりのそこ」カフェ&ギャラリー北都館、2011年「そこから」カフェ&ギャラリー北都館、2015年「さいぼうのうみ」ギャラリー犬養、2016年 「さいぼうのうみ #2」ギャラリー犬養、2018年「うみへ」紋別氷海展望塔オホーツクタワー。
(グループ展)2016年「空なる水は待ち侘びて」大丸藤井セントラル、2018 年「Synergetics」ギャラリー犬養等。

公式サイト https://creatorsbank.com/chibipon/

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