小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.25
~ろき通信 vol.63~

乾 哲郎(いぬい てつろう)の制作現場

 人には少なからず、頭の中にほしいもののイメージがあって、理想を追っています。私も例にもれず、ここ数年しっくりくるネックレスを探し続けていました。たまに訪れるようになったお店で取り扱っているジュエリーに魅入り、ネックレスに出会った瞬間、どんな人が作っているのだろうと思いました。間もなく、展示販売でお会いすることになったのが、作家の乾さん。ふとした出会いは、いつも突然にやってくるものです。

身に付ける人の一番のお気に入りを目指して

 今までの自分のことをじっくり思い出し、たまに宙を見つめながら、言葉を選び、優しい口調で答えてくれる乾さん。現在の活動に至るまでは、人と比べスタートが遅かったと話します。

 社会人になり、食品会社の営業の仕事を続けていました。その経験もとても重要でしたが、28歳のときに転職を考え、1年間カナダに行きます。そこで、仕事中心ではなく自分の時間や家族との時間を大切にすることにとても共感し、さらにものづくりの道で仕事をしていきたいという気持ちが決まりました。

 札幌に戻ってきてからは、百貨店の宝飾品を扱う工房で、職人として黙々と仕事を覚えていきました。体力的にきつくても、つくることと技術を身に付けていくことが楽しくて、苦ではなかったそうです。あっという間に8年が経ち、2008年に独立します。

 子どものころは、勉強が大嫌いでした。「なぜ嫌いだったのかも、わからないくらい」と笑います。母が服飾系の学校を出ているので、デザイン画や制作、他に油絵や陶芸もしていました。美術館に連れて行ってもらうことが多かった影響もあり、絵をよく描いていました。ものづくりへの憧れは、その影響かもしれません。人や運にも恵まれ、いろいろな後押しがあって、今もものづくりの仕事を続けられていると思っています。若いころは、感謝することも、されることも、実感がなかったときがありました。社会人になってからは、ありがたいと思うことばかりです。

 仕事については完璧主義なところがあって、集中し過ぎないように気をつけているとか。男性向けなら自分がほしいもの、女性向けなら身に付けてほしいものを中心に、どんな環境でまとうのか、石をきれいに見せるためのバランス、相反するモチーフからのデザイン、トレンドとのバランス等、その作品によって出発点が違ったりします。選んでもらえるものをつくるのは難しいですが、その人の一番のお気に入りを目指してつくっているのです。

 視野を狭めたくはないので、もっと活動範囲を広げていきたいとも考えています。そう話す乾さんは、静かな熱さを秘めていて、いつでも何かを探しているように感じました。作り手でも、そうではなくても、身のまわりにたくさんのヒントが潜んでいて、それを見つけられるかどうかが、大きな違いに繋がるのかもしれません。


K18パールカップリング(アコヤ本真珠6.5㎜)




写真:作家提供 
文:菅原由香 
※「ろき通信」は小野寺燃料が情報誌で10年以上継続しているアートレポートです。
北海道出身や札幌拠点で活動する現代アートの作家たちをご紹介しています。

乾 哲郎(いぬい てつろう)/ジュエリー作家


札幌市出身。2000年より宝飾の道に進み、2008年に独立して『goodman jewelry works』を設立する。
2012年よりオリジナルアクセサリーの製作販売を始め、個性的で上質なアイテムを数多く手掛けている。
リングからネックレス、ブレスレットまでを受注生産で販売。オーダーメイドや結婚指輪・婚約指輪などの製作、リペアも受け付けている。

【facebook】https://www.facebook.com/goodmanjewelryworks
【instagram】 https://instagram.com/goodmanjewelryworks/

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