小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.24
~ろき通信 vol.62~

辻 有希(つじ あき)の制作現場

 木工作家の辻さんは、お腹の底にどっしりとかたい決意というのか、作家としての覚悟を感じた一人です。凛としてまっすぐ前を見て揺るがない彼女のことを、いつ取材できるだろうと待ち焦がれていました。若手作家の中でも、ここまで精力的に活動している方は珍しいと思います。毎日の積み重ねから生まれる鍛錬された技術や作品と向き合う気持ち、使う側への隅々に渡る心遣いを作品から感じ取ることができます。

見慣れた風景に魔法をかけてくれるもの

 テーブルの上に、お盆にもお皿にもなる彼女の作品。そこに乗せたカステラ、隣にはコーヒーと読みかけの本。少し席を離れて戻る途中、ふとテーブルの風景が目に飛び込んできます。見慣れた自分の家の風景のはずなのに、まるで舞台のセットのよう。自分の生活空間を好きになる、居心地よく思えることは、宝物です。そんな静かな魔法をかけてくれているような落ち着きのある作風と、彼女自身が作家として積み重ねてきた時間についてご紹介したいと思います。

 大学のときに木工を学び始め、「大学で爆発した」と振り返る辻さん。毎日のように朝から晩まで制作をはじめ、ものづくりの先輩に会いに行ったり、大学のプロジェクトに参加したりと活発に動いていました。学校内だけでなく、外に人脈を広げるのは簡単ではありません。でも、火がついた彼女はとてもパワフルでした。

 濃密な時間を過ごし、たくさんの人から英知を吸収した彼女にチャンスが舞い込みます。家具メーカーへの就職が決まり、製造の担当になります。さらに経験を重ね、その後独立。卒業後も変わらず学び、実践し続けた彼女は、いつも動ける準備をしていたように感じました。

 自身を「頭でっかちなところがある」と言いますが、取材中、頭と体のバランスがとてもよいと感じることが多くありました。書道、ピアノ、バレーボールと学生のころから文武両道を目指し、失敗と成功を繰り返す中で、考えが通らなかったときの切り替えや軌道修正の方法を手に入れてきた人なのだとわかりました。〝オリンピック熱〟が冷めていない筆者には、作家もやはりアスリートなのだと思えたわけです。

 目標に対しての積み重ね、冷静な分析、不足しているものが何か知ったうえでの目標の立て直しとモチベーションのキープ。これらはまさにアスリートと同じです。彼女に限らず、バランスのよい作家が増え、失敗から強さを身につけていくものづくりの現場からますます目が離せなくなるのを確信した日でした。


制作現場




写真:作家提供 
文:菅原由香 
※「ろき通信」は小野寺燃料が情報誌で10年以上継続しているアートレポートです。
北海道出身や札幌拠点で活動する現代アートの作家たちをご紹介しています。

辻 有希(つじ あき)/木工作家


1987年生まれ 札幌在住。北海道教育大学岩見沢校芸術課程美術コース木材工芸研究室卒業。その後、家具メーカーにて勤務し、家具の製作に携わる。現在は、札幌を拠点に器やアクセサリーの制作活動を行う。

2009年 第27回朝日現代クラフト展入選(大阪)
2010年 伊丹国際クラフト展奨励賞(兵庫/東京)
2011年 工芸都市高岡クラフト展入選(’12/’13)
2013年 個展[佇まうセンとカタチ](北広島/黒い森美術館)
    紙と木の作品展「朝に起きる。」(札幌/context)
2014年 二人展「くらしのもの展(東京/GALLERY RUEVENT)
     紙と木の作品展「そして、夜がくる。」(札幌・東京/context)
   クラフトで乾杯 展 佳作賞(札幌)
2015年 個展「ならべてかさねて」(札幌/GALLERY kamokamo)
     灯しびとの集い 出展(大阪)
2016年 六人展 春/朝の食卓展 (東京/spiral market)
    「紐解く時間」(札幌/context)

【公式サイト】 http://akitsuji.com/

>> ろき通信 過去の記事一覧へ

>> Sun Clover トップページへ

▲ページトップへ