小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.23
~ろき通信 vol.61~

川口 巧海(かわぐち たくみ)の制作現場

 展示や舞台などを足繁く観てまわる川口さんの存在を知ったのは、6年ほど前でしょうか。最近は展示会場で偶然会うことが増えました。物静かな佇まいで、社交ダンスをしているのではと思うくらいに背筋を伸ばし、探るように作品を鑑賞している姿は、なぜか目に留まります。「少し引いていたほうが、結果、目立つこともあるじゃないですか」という言葉に、彼自身が凝縮されているように感じました。

奥行きの広さと物語を感じる作品


制作現場
 川口さんは、銅版画を中心に、コラージュや古道具の素材を組み合わせた立体作品等を制作しています。現在は、美術講師をしながら自宅で制作し、札幌市内を中心に勢力的に展示をしています。モノクロの作品が多く、どこか懐かしい雰囲気があります。

 彼が子どものころから興味を持っていた美術を本格的に学んだのは、道都大学のデザイン科に進んでからのこと。先生の勧めで銅版画を始めます。しかし、先輩や後輩もおらず、また先生の体調が悪い時期も重なってしまったため、技法書の順を追いながら、独学で技術を学んでいきました。当時を振り返り、「わからないことばかり。でも、のめり込んでいった」と話します。読書が好きで、説明書は始めから読むといった勉強家な面もあります。

 作品に登場する古道具は、もともと好きで集めていたもの。今では、友人からも古道具の情報が集まるようになりました。素材として取り入れたのも、自然な流れなのかもしれません。「無理をするとダメなタイプだから、無理はしない」の言葉どおり、作品と向き合う姿勢だけではなく、力を入れ過ぎない自然体の感覚を大切にしています。

 ドローイング作品の展示場にお邪魔したときに感じたのは、彼の作品の奥行きの広さでした。背景には物語があり、本を開いて引き込まれていくときの感覚と似ています。作品には、海と繋がるモチーフが多く登場します。彼が育った寿都の風景が作品の中に広がっており、すばらしい時間を過ごしていたことが想像できるかのようです。

 美術も食事も好き嫌いのない彼は、おどろいたことに、 〝昆虫食〟にも挑戦しています。そういった日々の経験から、彼のコラージュ作品の感覚が生まれるのかもしれません。この感覚を使って、ぜひ本のディレクションや映画制作にも取り組んでみてほしいです。

 冷静で穏やかな人柄からか、自分の作風が生きる〝サイズ感〟も把握していて、「肩幅より大きな作品はあまり作りたくない」とのこと。「今後は、苦手な油彩や色を使ってみようと思っている」と聞いて、いい意味で恐ろしいと感じてしまいました。苦手なことまでも吸収し、どんどん世界観を広げていく姿が、これからも楽しみです。


タイトル:Nyxは逆三角形で夢む




写真:作家提供 
文:菅原由香 
※「ろき通信」は小野寺燃料が情報誌で10年以上継続しているアートレポートです。
北海道出身や札幌拠点で活動する現代アートの作家たちをご紹介しています。

川口 巧海(かわぐち たくみ)/美術家


1987年生まれ、北海道寿都町出身。版画、コラージュ、オブジェ、鉛筆画などで制作。全道美術協会会友、北海道版画協会会員。

個展
2012年 「川口巧海銅版画展」カフェギャラリー北都館
2013年 「ぬばたまの…」ギャラリー犬養2階
「夜の詩学」ギャラリー犬養お風呂ギャラリー
2014年 「天上のファンタスマゴリア」ギャラリー犬養全室
2015年 「夢想の宇宙誌」茶房まつ風ギャラリー楓
「TZOLKIN」ステラプレイスTRUMP内にて
「ヰタ・マキニカリス」ギャラリー犬養2階
「追憶の接合術」ギャラリー犬養2階
2016年 「ヰタ・セクスアリス」Bar&Gallery卍
「微睡みの潭で」ギャラリー犬養お風呂ギャラリー

グループ展
2008年より多数参加

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