小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.18
~ろき通信 vol.56~

中嶋幸治(なかじまこうじ)の制作現場

 ある人に会うと、それまで流れていた時間が、別の時間の流れに変わったように感じることはありませんか? 主に紙を使った作品を生み出す美術家・中嶋さんとお会いしたとき、それを感じました。彼と会うのは、今回で2回目。初めてお会いしたのは一昨年の夏で、自転車でギャラリーに駆けつけた中嶋さんが、爽やかにお話をされるのが印象的でした。

まるで言葉が響いているかのような作品

 ゆっくりと呼吸をするように、故郷の青森から札幌に来たきっかけを話してくれました。バックパックを背負って北海道を一周し、一度帰ってから身辺整理をします。そのころ、制作環境を変えたくて、今までしてきたことをゼロにしたいと考え、故郷より北にある札幌に移り住みました。
 しかし、札幌である必要は特になかったのです。誰も知り合いがおらず、仕事をやめ、何のつてもないことで、大変さを体感しにきたのが目的。振り返れば、若気の至りかもしれない……と、照れくさそうに話してくれました。
 彼の作品には、言葉が響いているように感じられます。だから、「音楽の経験があるのでは」と思っていました。やはりギターとパーカッション、作詞もされていたそうです。しかし、札幌に来てからは音楽をやらないと決めていました。強い決意と目的を持っての移動だったのです。柔らかい雰囲気と強い信念、はっきりとした言葉で丁寧に質問に答える姿から、人柄が伝わってきます。故郷でも真剣に物事に向き合ってきたのが見えるかのようです。
 昨年の札幌国際芸術祭において、地下歩行空間で行われた企画展示「500メートル美術館」に参加しました。毎日多くの人が通る公共の場での展示です。自発的な制作が多い彼が、初めて依頼を受け、驚くほど短い期間で作品を完成させました。同じ場に出品したほかの作家たちも、重なる難しい条件を乗り越え、素晴らしい作品を見せてくれました。筆者は大変感動したのを覚えています。
 とにかく時間がない中で制作を進められたのは、「この展示に対するさまざまな気持ちは作品でしか応えられない」という思いがあったからです。それに、こういった公の場で、説明できない何かと戦いたかった。自分の中で処理しきれない何かに挑み、戦うことは、日常のリズムに紛れて忘れてしまいがちなことです。お話を聞いていてはっとすることが多く、自分の必要なものに対する彼の嗅覚の鋭さが、羨ましくもありました。
 彼の作品に多く使われる紙は、質感が気になります。自宅にあるたくさんのストックは、「それは、もう大変な量です」と苦笑い。実家にもまだたくさんあると、少し愛おしそうに言います。
 言葉が好きで、その意味についてもしょっちゅう考えています。頭の中が混乱することがある。だから哲学的な勉強も必要で、今はその時間を大切にしていると話してくれました。そんな彼が取り組んでいる芸術記録誌の完成が、とても楽しみです。


風とはⅢ(Tsuno)2014年制作
素材:紙、糊

中嶋幸治/美術家

1982年生まれ。
2007年より札幌市在住。芸術記録誌『分母』主宰。
ホームページ●http://kojinakajima.com

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