小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.36
Mr.Vee JayのJAZZナビ

蕎麦とJAZZ

『ARTʻNʼZOOT』

 食べ物の中で何が好きかと聞かれたら、迷わず蕎麦と答える。20 代の頃から昼食は、ほぼ毎日のように仕事の出先で蕎麦屋に行っていた。蕎麦の何が好きかといえば、喉越しと、醤油から作られる出汁。それがなければ成り立たないと思う。

 世界にも蕎麦粉を使った料理はあるが、日本の蕎麦のような食べ方はないだろう。「蕎麦を手繰る」という表現があるが、これも日本独特のものだろう。西洋では音を立てて食べるのは下品とされているが、音を立てないで蕎麦を食べても美味しくない。

 60 歳を過ぎて休みも少し増えた頃、遂に念願の道具を手に入れて蕎麦打ちを始めた。最初は付属のDVD を見ながら作ったが、人様に食べさせられる代物でなく、蕎麦打ちの奥深さを知った。また、蕎麦を打つには体力が必要であることもわかった。手打ち蕎麦の値段が高いのも納得できる。

 蕎麦の三たてといって「挽きたて、打ちたて、茹でたて」が美味しい蕎麦の条件とされるように、素人ながら蕎麦粉から作った手打ち蕎麦は美味かった。

 ピアニストで蕎麦好きの山下洋輔の著書『蕎麦処 山下庵』の中に「蕎麦もジャズも大人のもんだ‼」とあるが、確かに子供はジャズ喫茶にはいないし、子供だけで蕎麦屋にもいないだろう。最近、軽くジャズが流れている蕎麦屋が多くなってきているような気がするが、今回はじっくり聴きたい曲を紹介したい。
 ジャズの良さはアドリブの妙で、その最たるミュージシャンは、アート・ペッパーだと想う。40 年近く前に札幌公演を観たが、正しく天才としか言いようがない、真似しようと思っても誰も真似できない音色の出し方、絶妙な間の取り方、インプロビゼーションに命を懸けた演奏が今も記憶に残っている。初期のアルバムも素晴らしいが、今回は晩年の艶のあるアルトサックスが聴けるアート・ペッパー/ズート・シムズの『ART‘N’ZOOT』だ。アートとズートは共に1925 年生まれで、10 代の頃からの知り合いだ。アートはズートを尊敬し、演奏に感心していたらしい。この2人が録音で顔を合わせる最初で唯一のアルバムがこのCD だ。

 「WEE」はアートとズートがお互いの演奏に触発されて激しく絡み合い、高みへと向かってゆく。そして、「OVER THERAINBOW」のアートのイントロが何度聴いても素晴らしいとしか言いようがない。アートは過去の生い立ちを吹っ切って、演奏できる悦びを、この曲に魂を込めて吹いているような気さえする。心を揺さぶられる演奏だ。

 今宵は、蕎麦にも合う、人肌に温めた美味い日本酒でも呑みながら聴いてください。

Mr. Vee Jay より


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