ひととせコラム【40】   札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.40

ふるさとは遠きにありて、年はじめ

 新型コロナウイルス感染拡大が、いつ収束するかわからないまま、2021年を迎えた。この時期は帰郷のシーズンだが、コロナ禍のため「ふ るさとは遠きにありて思ふもの」(室生犀星)となった人も多いことだろう。1月2日に行われる皇居の一般参賀は見送られた。神社仏閣の初詣も制限された。今年こそ疫病退散を願いたいところだが、神社本庁は初詣の感染症予防のガイドラインを発表した。参拝は集中せずに、マスクを着けて、一定の距離を開ける。本殿前の「鈴緒(すずのお)」は取り外す。手水舎(てみずや)のひしゃくも置かず、お神酒も控える。2021年の新春は、外出を避けて家庭で過ごすのが無難ということになった。

 新年の料理には「おせち」がある。外食に出かけず、取り寄せた「お重」を楽しめるよう、「おせち」の宣伝が盛んであった。

 ところで、「おせち」といえば、少し気になることがあった。本州の各家庭では、年の瀬に「おせち」をつくり、これを正月3が日に家族や来客らとともにいただく。ところが、北海道や札幌では、大晦日のうちから食べ始めると聞いている。このことは、昨年の「サンクローバー」誌36号にも出ていた。『札幌学』(岩中祥史)という本にも、びっくりした風習として紹介されている。今年のようなコロナ禍の年には、出来上がったおいしい料理を年末から食べ始めるのは、合理的な風習のような気もする。果たして札幌ではこのような習慣が一般的なのだろうか?

 また、先のサンクローバー誌では、「お雑煮」の特集もしていた。北海道は全国から入植してきた人々が、それぞれの故郷の雑煮を食べてきたが、イクラを使ったり、石狩鍋風の具が入っている北海道ならではのお雑煮も豊富にある。

 おせちも雑煮も、もともとは宮中の料理が発祥で、庶民に広がったものである。いずれも「歳神(としかみ)さま」に供える料理で、それを神に供えたあと人々がいただいたわけである。昭和の時代に、宮内庁大膳寮に秋山徳蔵という有名な主厨長がいた。秋山さんの著書『味の散歩』によると、宮中の正月料理は、それは質素なものである。

イラストレーション:山本重也
http://www.shige-web.com/

 天皇陛下は、元旦早朝に四方拝をした後「晴御膳」を召し上がるかたちをとる。次いで、両陛下が「新年御祝料理」を実際に召し上がる。これは、まず「菱はなびら」といわれる餅である。そして、タイの切り身二切れを重ねて盛った皿に、浅漬け大根二切れを添えて、本膳とする。二の膳は、小形の伊勢エビと勝ち栗を添えて、雉酒(きじさけ)をお勧めする。正月料理のはじめとなる「菱はなびら」は、丸い白餅をあぶっ て、その上にアズキ色の菱餅を重ねる。砂糖で煮た細ごぼうに白味噌をまぶして中央に載せる。これを真ん中で二つ折りにして、美濃紙に包んでお出しする。そして、夜には「入夜御杯」と言って、いわゆる「お雑煮」を祝われる。新聞社のアンケートによると、令和3年は令和2年より 幸せになると思う人が多いらしい。

 函館や札幌、釧路にもゆかりのあった石川啄木には、次の短歌がある。「何となく今年はよい事あるごとし 元旦の朝晴れて風なし」。

大森清司(おおもり・きよし)|1937年8月千葉県野田市生まれ。1960年中央大学法学部卒業。1960年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994 年取締役就任。2002 年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情』『春秋高く、しなやかに』『ひととせを紡いで』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。

>> ひととせコラム 過去の記事一覧へ
>> Sun Clover トップページへ

▲ページトップへ