ひととせコラム【38】   札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.38

コロナとハート

 風光る春が過ぎて、風薫る夏がやってきた。しかし、今年の夏に吹く風は、どことなく不安な感じがする。新型コロナウイルスのせいである。「コロナ」はもともと太陽の周りにある高温度の「王冠」(クラウン)のリングのことである。ところが、最近は、中国武漢で発生したらしい「新型コロナウイルス」をさすようになった。東京オリンピック・パラリンピック2020も一年間延期となった。外出自粛が要請され、学校も一斉休校になった。「緊急事態宣言」が発せられ、このコラムの読者が多くおられる北海道も、筆者の住む千葉県も特別警戒地域である。

 朝日歌壇に「マスクにも家ごもりにも慣らされて花の季節も寂しく過ぎる」(中山由利子)、俳壇には、「コロナなど一呑みにして鯉幟(こいのぼり)」(二宮正博)などとあった。

 これまで「ひととせコラム」では、のんびりと季節の「花鳥風月」や文化・文学などを語ってきた。しかし、今回ばかりは「コロナ禍」を話題にしたい。新型コロナウイルスの正体は、まだよくわかっていない。PCR検査法はあるが、まだ予防ワクチンも完全な治療薬も開発されていない。収束後の経済、観光、飲食業などへの影響も極めて深刻となろう。

 新型コロナが流行しだして、外出自粛が要請されたころから、私は個人的にも自粛せざるを得なくなった。というのは、心臓病になってしまったからである。本来の太陽コロナが地球にとって必要なように、人間にとってハート(心臓)は、大切な臓器である。2019年12月に「心不全」を発症したのである。このため、野田市にあるキッコーマン総合病院の循環器内科に入院することになった。約40日間入院して小康を得た。病気の真因は僧帽弁閉鎖不全であり、その治療のためには、専門病院での手術が必要であった。そこで、千葉県松戸市にある新東京病院を紹介された。松戸市は、江戸川をはさんで東京葛飾区の隣にあり、名高い「矢切の渡し」を船で渡れば、そこは「男はつらいよ」で有名な柴又である。松戸は、かつて伊藤左千夫の『野菊の墓』の舞台であった。

 新東京病院は、上皇様の心臓手術をされた天野篤先生(現順天堂大学病院長)が活躍されたこともある病院である。私の手術の執刀医は、心臓外科の第一人者である中尾達也先生(副院長)である。先生は心臓血管外科医であるが、病気を見るだけでなく患者の「こころ」にも寄り添うドクターである。手術の前に「頑張りましょう」と握手をしてくれた。

イラストレーション:山本重也
http://www.shige-web.com/

 今回の手術は、僧帽弁の置換手術に加えて、冠動脈のバイパス手術であった。私としては中尾先生に命を託す覚悟であった。手術は、3月10日に無事に行われた。手術後1週間で一般病棟に移り、約3週間で退院することができた。今回は大きい手術なので、家族の付き添いが要請された。妻と娘は立ち会えたが、マニラにいる長男は帰国できなかった。退院してからすでに3カ月になるが、経過はほぼ順調である。

 コロナ禍という人類の試練も私の病気も、すべては「ひととせ」の中にある。日本の夏祭りは京都の祇園祭を初めとして、疫病退散を祈るものだった。そろそろコロナにも退散を願いたい季節である。

大森清司(おおもりきよし)|1937 年8月千葉県野田市生まれ。1960 年中央大学法学部卒業。1960 年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994 年取締役就任。2002 年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010 年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情』『春秋高く、しなやかに』『ひととせを紡いで』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。

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