小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.34
~ひととせコラム【34】~

夏に吹く風

 海洋性気候の我が国では、夏でもさまざまな風が吹いている。夏の風は、昔から文学でも多く詠われてきた。まず、奈良時代の風である。万葉集の編者は大伴家持であるが、彼は越中富山の国司だったことがあり、次の歌がある。「あゆの風 いたく吹くらし 奈呉の海人の 釣する小舟 漕ぎ隠る見ゆ」。「あゆの風」が激しく吹いているようだ。奈呉の漁師たちが釣りをする小舟が、波間に見え隠れしている。「あゆの風」または「あいの風」というのは、夏の日本海の沖合で吹く東風ないし北寄りの風のことであった。当時は、まだ北前船は通っていなかったが、「あゆの風」は北海道から上方に向かう北前船には、都合がよい順風だった。「令和」の時代になって、その典拠が万葉集の大伴旅人ということで、大宰府が有名になっている。大伴旅人の子が家持であった。万葉集の1割以上が家持の歌である。富山県高岡市には、「万葉歴史館」がある。奈呉の浦の古い記録なども残っている。

 一方、太平洋岸で夏によく吹く風は、南風が多い。西日本では「はえ」と呼ばれる。「白南風」は、梅雨明けのころ吹く、そよ風のことである。室町時代のはじめ頃に細川頼之という武将がいた。元総理大臣の細川護熙氏の祖先である。頼之には「海南行」という漢詩があり、詩吟などでもよく詠われる。「人生五十 功無きを恥ず 花木春過ぎて夏すでに中ばなり。満室の蒼蠅掃えども去り難し。起って禅とうを尋ねて清風に臥せん」。五十歳を過ぎてもさして功績はなかった。時すでに夏半ば。部屋には蠅どもが一杯だから、禅堂の床几に横たわり涼しい風でも当たろうか。ここでいう「清風」は、瀬戸内から吹く涼しい海風のこと。実は、頼之には多くの武功があったのだが、3代将軍の足利義満に疎んじられて、讃岐に帰国せざるを得なくなった。その無念の思いを、風刺をこめて詠ったものである。



イラストレーション:山本重也
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 歴史は下って、江戸時代の大阪に上島鬼貫という俳人がいた。「西の芭蕉」とも称された。彼には「なんと今日の暑さはと石の塵を吹く」とか「そよりともせいで 秋立つことかいの」という句があった。前の句は、暑い日も暮れて、河原に涼風を求める姿を彷彿させる。後の句は、暦の上では立秋となったが、風はそよとも吹かないなぁというボヤキ。現代人にも通ずる軽妙さがある。暦の上の立秋は、新暦では8月のはじめである。8月中旬のころ筆者は、市内にある江戸時代から続く旧家を訪れたことがあった。伝統的建築の座敷に、木々の間を通るかすかな風を感じた。夏も盛りを過ぎると、朝晩は気温も下がり涼風が吹き、虫の音を聞くようになる。

 そして、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」という詩の中には「ヒデリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハ オロオロアルキ」という一節がある。「寒さの夏」というのは、「やませ」という風が吹くことをさしている。オホーツク海から、東北地方の太平洋岸に吹く夏の冷たい風のことである。この風は冷害を招き、農家はまさにオロオロと歩かざるを得なかった。筆者も若いころ、福島の浜通り地方に住んだことがあるので、寒さの夏を多少経験している。そんな寒い夏はこないことを祈るのみである。やはり、夏は暑くてエアコンを使い、時には扇子で風をあおぐくらいがちょうどよい。

 日本は、水が美味しい国である。世界で水道の水が飲める国は、日本をはじめ13国くらいしかない。環境庁では、中でも良質な水、保全がよい湧水などを「名水100選」として選んでおり、北海道にも3カ所ある。アジアモンスーン地帯にある日本は、「カビの文化」が生まれ、日本酒や醤油、味噌などがつくられる。水には軟水と硬水があるが、軟水はカルシウムなどが少なく、まろやかで日本料理などに向いている。日本の降水量は、世界平均の約2倍もある。しかし、日本の山々は急峻で、川の水はすぐに海に流れ込む。人口1人当たりでは、水は決して多くはない。水は大切に使わないといけない。時には夏に全く雨が降らず、日照りをもたらすことがある一方で、大雨が災害をもたらすこともある。日本では毎年のように水による災害がある。水を完全にコントロールできたなどと考えるのは、不遜というものである。私たちは水の恵みに感謝するとともに、水への畏敬を持ち、水への備えもしたい。

大森清司(おおもりきよし)

1937年8月千葉県野田市生まれ。1960年中央大学法学部卒業。1960年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994年取締役就任。2002年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情 私のほどほど人生』『春秋高く、しなやかに シルバー・ボーイズ、ビー・アンビシャス!』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。

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