小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.25
~ひととせコラム【25】~

春よ、来い

 今の人たちは「春よ、来い」といえば、松任谷由実の歌を連想するのであろうが、筆者の年代では、まず相馬御風の『春よ、来い』とか、吉丸一昌の『早春賦』とかを思い起こす。『早春賦』は、文語調の「春は名のみの 風の寒さや」で始まり、第二節の「氷融け去り 葦はつのぐむ さては時とぞ 思うあやにく 今日も昨日も雪の空」と続く。また狂言の『庵の梅』には、「雪間の風も春なれや」とある。古来人々は、雪が舞い風の吹く季節に、早くも春の到来を感じとってきたのである。気温はまだ低く、風も冷たいが、まず光が変化してくる。日ごとに日の出が早くなり、日の入りも遅くなる。陽射しも強くなってくる。毎年立春のころになると、北海道の釧路湿原にある鶴居村などでは、タンチョウが飛来する。この村の雪裡川は、厳寒の朝でも凍らず、川面から立ち上る水蒸気が冷やされ霧に包まれる。そこでタンチョウの群れが羽を休めるという。


イラストレーション:山本重也
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 十数年来の趣味でやっている詩吟に『春を探る』という一題がある。詩の作者は宋の時代の戴益である。いわく「尽日春を尋ねて春を見ず。杖藜踏破す 幾重の雲。帰り来たって、試みに梅梢を把ってみれば、春は枝頭にありて、すでに十分」。一日がかりで、春色を尋ねてみた。あかざの杖をついて幾重もの山を歩きまわったが、どこにも春の気配がなかった。ところが、我が家に戻って、試しに梅の小枝を掴んだら、つぼみがもう枝先に膨らんでいて、十分の春が感じられた。気づかぬ間に、春はもう身近に来ていたというのである。春を待ち望む気持ちは、昔から中国の人も日本の人も同じなのである。わが国の2月のころ、北海道あたりでは、まだまだ寒さも厳しいが、本州の一部では、すでに春の訪れが感じられる。

 気象庁やウェザーニュース社などでは、立春も過ぎると、梅や桜の開花予想を出し始める。北海道放送など気象庁の許可を得たテレビ局では、独自の予報が出せるそうである。同じ北海道でも松前や網走、釧路などとでは、開花は20日以上の開きがある。また、全国に普及している「ソメイヨシノ」と北海道の「エゾヤマザクラ」などでは、当然開花の時期が異なる。松前公園には、早咲きから遅咲きまで、250種もの桜があるという。そして日本には、驚くほど早咲きの梅や桜を育てる地域がある。徳島県の谷あいの町、上勝町は「葉っぱビジネス」で有名である。柿や南天の葉から、梅や桜の花を畑やハウスで栽培している。200軒ほどの農家で、主にお年寄りが育て、全国の市場に出している。葉っぱは高級料亭などで、料理の「つま」として使われ、「季節の早取り」が重視される。通常の季節の45日前の出荷が原則である。たとえば梅の花は1月、桜の花は2月。出荷はパソコンなどを駆使して対応している。これには開花予想をする人もビックリであろう。

 早春の季節には、多くの伝統行事もある。「どんど焼き」(左義長)、節分(豆まき)、最近復活した「恵方まき」など。伝統行事の本家の中国では、2017年の「春節」は1月28日だが、このときは前年の福を引き継ぐため、花火や爆竹でにぎやかにお祝いするようである。しかし、日本では、去年のことは忘れ、静かに新年を寿ぐ。やがて春が来れば、入学試験の発表、成人式、卒業式、入学式、入社式などが待ち受ける。人生の節目となる出来事が目白押しである。また、昨年開通した北海道新幹線も開業2年目。待ちに待った観光客も北海道を大勢訪れることだろう。北海道や北国にも、春よ、来い。早く来い。

大森清司(おおもりきよし)

1937年8月千葉県野田市生まれ。1960年中央大学法学部卒業。1960年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994年取締役就任。2002年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情 私のほどほど人生』『春秋高く、しなやかに シルバー・ボーイズ、ビー・アンビシャス!』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。

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