SunClover48号
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まだ新型コロナの感染拡大は収まらず、厳しい冬が続いている。しかし、季節はほぼ確実に巡ってくる。人々は昔から春の到来を待ち望んできた。「春はあけぼの」で始まる清少納言の『枕草子』でも「正月一日は、まいて空のけしきもうらうらとめづらしうかすみこめたるに……」と述べている。冬至も過ぎれば、夜が明けるのも早くなる。旧暦の1月頃には、もう春の気配が感じられたであろう。花や草でいえば、まず梅の花がほころぶ。我が家の近くの家でも、2月には梅の花が咲く。 「梅一輪一輪ほどの暖かさ」という服部嵐雪の俳句がある。梅は桜と違って、一輪一輪と、そっと咲いてくる。寒さは残るものの、一輪ほどの暖かさを感じるというのである。梅はまた「百花のさきがけ」と呼ぶにふさわしい。しばらくすると、ニリンソウが咲く。この花は、キンポウゲ科の多年草で、春先の野山で二輪の小さな花びらをつける。アイヌの人々はこれを山菜として採取し、備蓄食料にしたという。そうこうしているうちに、立春がやってくる。松尾芭蕉は「春たちてまだ九日の野山かな」と詠んでいる。立春とはいえ、まだ寒さは残る。立春を過ぎて9日経ったが、野山には草木の緑はまだ見えない。 「三寒四温」という言葉がある。3日寒い日が続いたかと思うと、その後4日は暖かい日がやってくる。春は忍び足で訪れるのである。立春から春分までの間に吹く、強い南風がある。キャンディーズの歌に『春一番』というのがあった。作詞は穂口雄右である。「雪が溶けて川になって流れてゆきます つくしの子がはずかしげに顔を出します もうすぐ春ですね ちょっと気取ってみませんか」という懐かしさを感じる歌詞であった。この「ひととせコラム」は、2011年春から本誌「サンクローバー」で連載を始めたもので、今年で10年以上になる。何を書いても結構ということで、気軽に引き受けて始めたものだ。その時々の話題を、自由に語らせてもらった。ところが、寄る年波もあり、体調が優れないことも多くなった。時に、病院に入院することもあった。今は、マンションの隣の老人ホームに入居している。そうなると、どうしても話題が乏しくなってくる。前の2回は、本誌の編集部にお手数をかけた。そこで、名残り惜しいが、このコラムも今回で閉じることにした。長い間「サンクローバー」に連載させていただき、お読みいただいたことに深く感謝している。小野寺燃料のお客様と、サンクローバーの読者の皆様のご多幸を祈念して、筆をおく。vol.46(最終回)大森清司(おおもり・きよし) 1937年8月千葉県野田市生まれ。1960年中央大学法学部卒業。1960年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994年取締役就任。2002年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情』『春秋高く、しなやかに』『ひととせを紡いで』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。イラストレーション:山本重也 http://www.shige-web.com/ひととせコラム13大森清司い春を待つ

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