SunClover45号
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型コロナの感染が収束しない2月下旬に、ロシアがウクライナに対して軍事進攻をした。日本にとっても「対岸の火事」ではなく、政治経済への影響も出てきた。このコラムでは、平和な日本の春を取り上げるが、1日も早く事態が良い方向に向かうことを願う。 「山笑う」「山滴る」「山粧よそおう」「山眠る」という言葉がある。それぞれ春、夏、秋、冬の四季をあらわす。中国は北宋時代の『林泉高致』の一節からの引用とされる。日本では歳時記にも取り入れられている。「故郷やどちらを見ても山笑ふ」(正岡子規)、「山笑ふ歳月人を隔てけり」(鈴木真砂女)などがある。冬は木の葉も落ちて、穴にもぐり眠っていたクマなどの動物たちが、木の芽も芽吹く春になると盛んに動きだす。野生動物のふるさとは、山である。かつて動物が出没する場所は、山深いところに限られていたが、最近はそうでもなくなった。天候の関係でドングリが不作の翌年などは、動物たちは里に下りてくる。東京都心部でも、タヌキやニホンサルが出たという。サルの遺伝子を調べたら南アルプス出身らしい。このほか関東地方の平野部ではサル、シカ、イノシシが出てきて、札幌市内では大きなヒグマが出てくるようになった。「熊出ると立札の新しく」(関口美子)、「熊除けの鈴高らかに登校児」(和田和子)などの句がある。北海道は、もともと森林地帯や湿地の原野だった。アイヌの人たちは、ヒグマ、エゾシカ、キタキツネ、エゾリスなど多くの動物たちと住んでいた。「イヨマンテ」は、アイヌの人々がクマを神として天に返す祭りであった。「北海道コンサドーレ札幌」のチームキャラクターであるシマフクロウは、アイヌの守り神だった。北海道と本州の間には「ブラキストン線」という動物の境界線がある。地球の最終氷河期、津軽海峡には水深130メートルの河があったので、動物たちは海峡を渡れなかった。このため北海道と本州の「動物相」が異なり、北海道は動物の宝庫となったのである。北海道でも開発が進み、山と里山の境界がくずれてきている。現代のヒグマは森にはないトウキビやリンゴを食べにくるらしい。釧路湿原には、野生生物保護センターがある。シマフクロウ、タンチョウ、オジロワシ、オオワシなど、絶滅の恐れがある生物が保護対象で、クマは入っていない。北海道のヒグマは今でも推定1万頭以上いるらしい。野生動物が増えすぎると、農畜産物の被害はもとより人々への被害も出てくる。2021年6月、札幌市内にクマが出て、4人を傷つけた。この時の「大捕り物」の模様は、『文藝春秋』3月号の「羆を撃つ」に詳しい。野生動物や生態系の保存も大切だが、動物愛護一辺倒というわけにはいかない。科学的根拠に基づく狩猟の承認や、山林の保全管理や、里山の適切な保全活動も必要である。奈良公園のシカは天然記念物に指定されているが、聞くところによれば、人々の1000年以上の苦労があった由である。「山笑い、動物うごく」季節に、人と動物との共生のあり方を考えることも必要ではないかと思う。13大森清司(おおもり・きよし) 1937年8月千葉県野田市生まれ。1960年中央大学法学部卒業。1960年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994年取締役就任。2002年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情』『春秋高く、しなやかに』『ひととせを紡いで』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。イラストレーション:山本重也 http://www.shige-web.com/vol.45大森清司ひととせコラム新山笑い、動物うごく

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