小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.30
~ろき通信 vol.68~

樫見 菜々子 (かしみ ななこ)の制作現場

 ここ数年、樫見さんが取り組んでいる「冬囲い」を題材にした作品へのアプローチにとてもワクワクしていました。彼女は主に布を使い作品を作る造形作家で、とても興味深い視点を持っています。友人であるがゆえに普段聞き出せないことも多いので、この「ろき通信」で改めて紹介できることをうれしく思います。

「冬囲い」の印象や捉え方の違いを楽しむ

 興味のあることや気になることを素直に追いかけている樫見さんは、2014年のある企画をきっかけに「冬囲い」を題材にした作品を作り始めます。「冬囲い」とは、樹木を積雪や冷気から保護するため、竹やわらを使って囲むこと。そもそも彼女は、生活の中に〝自然〟という題材を見つけることが多く、「冬囲い」もそうだったのだと思います。シリーズにするつもりはなかったそうですが、題材自体の展開の可能性に、彼女自身も大きく動かされた結果ではないでしょうか。

 「冬囲い」という作業に注目したのは、作業する人の個性が出てしまうところに強く惹かれたから。「どうしてこうしたのだろう」というユーモアもある「冬囲い」という行為への模倣的な側面もあります。写真の「丸い木」という作品を作る前は、囲っている中の木は作っていなかったと話す樫見さん。小さくちょこんと乗った布がおもしろい作品です。

 しかし、素材もサイズもそれ自体とは異なります。これまで札幌、台湾、東京で「冬囲い」を題材にした作品を発表していますが、北海道では一般的に知られている「冬囲い」とは見方が変わってくるので、作品を目にしたときの印象や捉え方が明らかに違うのだそうです。知らない人には、「冬囲い」自体の説明だけで終わってしまい、もう一歩踏み込んだ話ができない……その違いも、実にワクワクするところだったりします。

 暖かい地方にも「冬囲い」はありますが、それは〝造形美〟に寄ってくるのだそう。北海道とは木の種類が違い、形によってその方法も変わります。大袈裟な話かもしれませんが、庭師などの職人ではない目線で「冬囲い」を調べ、作品を作るプロセスを行っているのは彼女だけではないでしょうか。とても勝手な話ですが、彼女にはもっと研究を進めてもらい、さまざまな「冬囲い」の作品を作ってほしいです。

 札幌で行われたワークショップでは、自分と向き合う題材としての「冬囲い」ではなく、共有するアプローチからの視点で、これもまたおもしろいと思いました。素材感や造形美に視点をおく参加者の中には、実際に「冬囲い」の経験者がおり、捉え方がまったく違ったそうです。「冬囲い」であろうとした作品と、「冬囲い」を飛び越えていった作品の違いから、多いに収穫があったのだとか。違うことに驚きや喜びを感じられる。そのとき、可能性は大きくなるのかもしれません。

写真:作家提供 
文:菅原由香 
※「ろき通信」は小野寺燃料が情報誌で10年以上継続しているアートレポートです。
北海道出身や札幌拠点で活動する現代アートの作家たちをご紹介しています。

樫見 菜々子(かしみ ななこ)/造形作家

1980年生まれ、札幌市在住。
北海道女子大学短期大学部工芸美術学科卒業(現北翔大学)。
日常で出会うささやかな出来事をもとに、主に布を素材として存在の気配や風、境界などを視覚化するきっかけや場を作り出すことを試みている。 主な展覧会に、2015年「知覚されるアート」モエレ沼公園ガラスのピラミッド2F、2014年「セブン・ストーリーズ」本郷新記念札幌彫刻美術館、「真實在他方 Reality is Somewhere out there」、CRANE GALLERY、台湾など。
公式サイト http://www.nanakokashimi.com/

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