小野寺燃料

札幌の住まいと暮らしの情報誌「Sun Clover」vol.26
~ひととせコラム【26】~

夏の夜の光

 梅雨が明けるころ、光のハーモニーとされるホタルが飛び交う。ホタルは桜前線と同様に、南から北上する。九州や四国では、5月の末のころから出現する。もっとも沖縄では1年中、ホタルが見られるとか。北海道にホタル前線が訪れるのは、7月以降である。人それぞれにホタルの思い出があろう。私の思い出は、日本最後の清流とされる高知県四万十川のホタルである。屋形船でいくつかの沈下橋の下をくぐって、上流の中洲へ着くと多くのホタルが闇のなかを群れ飛んでいた。それは幻想的風景であった。「うつす手に光る蛍や指のまた」という炭太祇の句がある。このときホタルを移す相手は子供だったのか、女性だったのか。ホタルたちは、夕闇に出会いを求めてきらめく。オスは宙を舞いながら発光する。メスは、地上近くで頬を染めるように光る。  ところで、ホタルはなぜ光るのか。私が勤めた会社の研究所では、生物の発光現象も研究していた。簡単に言えば、ホタル・ルシフェラーゼという酵素の働きである。そして、「ルミテスター」という機器を開発し、食品や医療の清浄度検査に役立てている。現代ではホタルも、ただ光っているだけではなかったのである。


イラストレーション:山本重也
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 夏休みに入るころとなれば、夜空に花火が輝く。花火は、光のページェントであり、動くイルミネーションでもある。打ち上げ花火では、大輪のスターマインが花形である。花火大会は、長岡、大曲、東京両国、土浦、諏訪、岐阜長良川、兵庫など全国いたるところで開かれる。北海道でも洞爺湖をはじめ、多くの花火が上がる。両国の隅田川花火は、八代将軍吉宗のころ、大川(今の隅田川)の川開きとして始まったとされる。最近では7月末の土曜日に催される。現在の隅田川花火大会は、会場が2つに分かれ、2万発もの花火が打ち上げられる。「八月は夢花火 私の心は夏模様」という井上陽水の歌があった。私は、かつてモナコのF1グランプリ・レースの観戦に行ったことがある。その夜、優勝者を称える王室主催の晩餐会が豪華ホテルで開催されたが、地中海で打ち上げられたヨーロッパの花火は今も記憶に鮮やかである。

 太陽歴の7月7日は七夕であるが、本州ではまだ梅雨のさなかにある。天の川はまだ東の地平近くにある。天の川は、銀漢とも呼ばれ、無数の星の固まりである。昔から、天の川を挟んで、牽牛星のアルタイル(わし座)と織女星のベガ(こと座)が輝くのは、夏の話題である。2つの星はともに白色の一等星である。かたや16光年、こなた26光年と離れているので、一夜のうちに近づくということはない。しかし七夕伝説は、中国で2500年も前からあったようである。現代でも七夕の日には、笹の葉に色とりどりの短冊を下げ、星に願いを込めて書く風習が残っている。下って昨年(2016年)の7月、東京歌舞伎座では、「柳影沢蛍火」と「流星」が演じられていた。尾上右近が織姫、坂東巳之助が牽牛、市川猿之助が流星を演じ、フィナーレで猿之助が得意の「宙乗り」で宇宙のかなたに飛んで行った。

 8月ともなれば、弘前や青森のねぶたまつりの大灯篭や秋田の竿灯まつりが登場する。盂蘭盆の季節になれば、諸精霊のための迎え火、送り火、「灯篭流し」など多くの行事がある。8月16日の夜、京都五山では「おしょらいさん」(お精霊)のために、大掛かりな送り火が行われる。送り火は大文字、妙法、船形、左大文字、鳥居の順で焚かれる。また、北海道網走市のオロチョンの火祭りや、山梨県富士吉田の火祭りなどもよく知られている。いずれも諸精霊や五穀豊穣を祈る光である。このように夏の夜には、群れ飛ぶホタル、胸躍る花火、遥かな星、祖先をしのぶ光が輝くのである。

大森清司(おおもりきよし)

1937年8月千葉県野田市生まれ。1960年中央大学法学部卒業。1960年野田醤油株式会社(現キッコーマン)入社。営業企画部長、デルモンテ事業部長などを経て、1994年取締役就任。2002年代表取締役専務として全国の営業を統括。2010年退職。この間、日本マーケティング協会マスターコースマイスター、全国トマト加工品業公正取引協議会委員長、学校法人中央大学理事などを歴任。著書に『私のビジネス春秋』『春秋余情 私のほどほど人生』『春秋高く、しなやかに シルバー・ボーイズ、ビー・アンビシャス!』(諏訪書房)。趣味は読書、詩吟。

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