小野寺燃料

ぴゅあ ロキ通信

【2011年初夏号】 ものづくりの周辺 telco(テルコ)の制作現場

 もしかすると、札幌では珍しい帽子作家さんかもしれません。初めてtelcoこと、刈田有紀さんとお会いしたのは、ちょうど帽子の作り方と作業工程に興味を持っていた去年のことでした。
知り合いのイベントスペースで帽子の展示会、しかもオーダーで作ってもらえると聞いて、わくわくする気持ちを抑えられずに会場に向かったのを覚えています。

  「着物のようにお誂えできる、自分だ けの帽子」と想像しただけで嬉しくなり ます。展示会場では、45点の帽子が目 にも楽しく試着できるようになっていま した。入り口の横には刈田さんがいて、 好きな帽子のデザインや布をサンプル から選べるようになっています。来場し たお客様は、展示されている帽子を次 から次へと楽しそうに試着していまし た。かぶったときに感じた温かさを、取 材中にも思い出しました。
 小さなころから絵を描いたり、布を 使って遊んだりすることがとても好き だったという刈田さん。おばあさんが腹 話術の人形を作っていたなど、小さなこ ろから身近にものつくりの環境があっ たからなのか、「今でも、考えることと手 を動かすことが趣味」とニコニコしなが ら話してくれます。
 その延長で、自分の好きなことをする ために服飾の学校に進もうと思っていた みたいですが、実際には美術大学へ進 学し彫刻を学びます。その後アパレル関 係に就職し、医療事務や美術館勤務を経 験。そのときの接客経験が活かされ、今 はとても助かっているとのことです。

 telcoとして活動を始めたきっかけは、 美術の分野にそのうち戻 りたいと思っていたこと。 そして、仕事をしながら子 供服を作っているときに、 子供用の帽子を見た方か ら「大人用はないの?」と 聞かれたことだそうです。 それから、どんどん帽子 の制作にシフトしていき ました。
 親御さんが家で仕事を していたこともあって、家 に帰ったときの安心感を 知っている刈田さんは、 家で仕事をしようと決め て帽子を作り続け、4年 目になります。最近は帽 子が流行っているのでやりやすく、良い ペースで制作できているそうです。
 人当たりの良い彼女は、意外にも「本 当はあまり接客が得意じゃない」と語り ます。普段は家に籠って作ることが多 く、過去の接客経験がなかったら自分で 展示をして販売することはなかったかも しれないそうです。
 ですが、オーダーも人任せにせず、刈 田さん自身が直接お話を聞いていま す。その丁寧な対応とものづくりの真面 目さが、作品を手に取る相手にも伝わっ ているのではないでしょうか。
 展示の準備には、制作に3カ月、什器を 作るのに1カ月かかります。帽子は決まっ た型が存在しているので、黙々と作業工 程を進めていくとゴールが見えてくるの ですが、什器はなかなかゴールが見えて こないので苦労するそうです。
 春夏、秋冬と年に2回展示があり、私 もまた、愛情のこもった帽子そのものを 見に行くのが楽しみですが、それらの展 示風景も楽しみです。 (写真・クスミエリカ/文・菅原由香)

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【2011年爽秋号】 ものづくりの周辺 Dr.ツクールの制作現場

 ツクールさんとは、彼がガラクタ発明家として活動していた4年くらい前に初めてお会いしました。その後、共同アトリエと展示スペースを持つ拠点を数名の作家と立ち上げ、同じ建物の中にそれぞれ部屋を持ったのですが、彼とはアトリエがお隣同士でした。大工仕事から一緒に取り組んでいたころを思い出すと、とても懐かしく思えます。それ以前のツクールさんの活動については詳しく聞いたことがなかったので、新しい動きを始めた経緯と一緒にお話を聞かせてもらいました。同じ時間を共有していた仲間が、それぞれの場所でがんばっている姿は、とても励みになります。

 

 ガラクタ発明家として作品を発表したのは、以前アニメーションの仕事をしていたときに葛藤を感じ、「ひとりで始められることを」と考えたからだそうです。当時を振り返ると、何をやっても上手くいかず、普通に生きようとすればするほど前に進めなくなり、身動きが取れなくなっていたとのこと。「このやり方ではいけない」と思い作品を作り、発表してきました。
作家同士で作品を制作するための現場を一緒に作ることから生まれる出会い。そのおかげで、気付けていなかったものが見えてきました。自分と違うものづくりの現場にいる人を間近に見て、自身と重ね合わせることで、冷静に自分を理解することができた。そう、真っ直ぐな眼差しで話してくれました。大切にしたいものが、はっきり見えてきたのが重要な“気付き”だったのです。
 新たな作品制作も、アニメーションの延長にありました。それは、新しく動き出した「+A」(北海道アニメーションプロジェクト)の活動につながっています。  ひとりで作ることから、チームで作り上げることへ進んだきっかけは、飲み会の席でアニメーションの講座をしようと話が持ち上がり、その打ち合わせに集まったとき、団体を結成する運びになったそうです。そんなつもりはなかったと笑いながら話してくれました。
 ひとりでもアニメーションは作れますが、アニメーションが活きる“現場”を作りたかったのだろうと、お話の端々から感じられました。
 彼が大切にしているものの中には、ファンタジーの要素が不可欠です。アニメーションの魔法はそこにあり、現実に夢を落とし込む装置となり、見る人の心に残るのです。彼の「作れなかった」というジレンマから生まれたキャラクター“Dr.ツクール”の名前も、なるほどと思いました。
 自身を投影しているこのキャラクターが、これからもいろいろな世界を旅して行くのがとても楽しみです。
 昔話をしながら、お互いの近況報告と、これからどうしたら面白いことにつながっていくかをじっくり話せたことも、良い機会でした。これからの「+A」に関わる方々の動きは見逃せません。ぜひ、注目していただきたいと思います。

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【2011年歳末号】 ものづくりの周辺 冨田哲司の制作現場

 冨田さんは映像を中心にインスタレーションを展開しています。最近は、トランスメディアアーティストとして活動し、個展の他に別ジャンルの作家さんとの展覧会をすることが多く、何かの機会にお話を聞いてみたいと思っていました。好奇心旺盛な方で、興味のあることや場所へ、自ら足を運びます。ここ数年は、とても純粋に自身の制作意欲と向き合っている印象があります。冨田さん自身の枠にとらわれない感覚にも共感するところがあったので、とても良いお話が聞けました。

 冨田さんは、子どものころから絵を描くことが好きで、その後デザインの勉強を始めました。描きたい欲求に素直になることよりも、デザインの勉強を積み重ねる中で経験した「何のためにデザインをするのか」という視点に重要性を感じているそうです。舞台やイベントなどの公共性の高い空間でデザインするときも、それはとても大切な視点だったと話します。
 制作するときには、自分の身の周りで起きていることや、社会との関わりを考えながら作品と向き合い、人とのコミュニケーションから生まれる“気付き”や“動き”を大切にしています。いつも制作について考えている彼は、常に気になったことや違和感、引っ掛かるものをノートにメモしているそうです。堂々と話すイメージから一転、「ノートは見せられない」と言う恥ずかしそうな姿は、意外な一面でした。

 telcoとして活動を始めたきっかけは、 彼はわかりやすく目的がはっきりしたことと向き合うのが得意で、それを観客に提示するとき、入りやすい切り口で遊びを作るのが上手です。観客とのコミュニケーションを大切にする彼ならではの空間の作り方で、あまり美術やアートに慣れていない方にも見やすい作品だと思います。
 自身のアトリエや、決まった場所を持つ作家が多い中、彼の制作現場は一緒に展覧会をする作家のアトリエや、展示する会場など、あまり場所を気にしていません。表現方法も自由で、その時々で違うのです。コミュニケーションを大切にする彼らしいとも思いました。
 どこでも自分らしく、今の自分自身の問題、社会の動きを見ながら作品と対話し、観客とのコミュニケーションから得られるものから共感を呼び、もっと大きな化学反応を起こして自分に戻ってくることが楽しいと言います。
 一人で考えるだけではなく、ものごととの向き合い方が、他の作家さんとの展示に繋がったりするのだろうなと、話をしながら思っていました。また、次の展示を見るのが楽しみです。 (写真・作家提供/文・菅原由香)

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